尿検査のウロビリノーゲン 基準値と異常値 肝臓・血液疾患との関連 専門家解説
健康診断の尿検査:ウロビリノーゲンとは何か?
健康診断で行われる尿検査は、体の状態を把握するための基本的な検査項目です。その中に「ウロビリノーゲン」という項目があります。このウロビリノーゲンは、私たちの体内でどのように作られ、なぜ尿中に排泄されるのでしょうか。また、その量が基準値から外れている場合にどのような体の状態を示唆するのかについて、専門的な観点から解説します。
ウロビリノーゲン生成のメカニズム
ウロビリノーゲンは、主に赤血球のヘモグロビンが分解される過程で生成される物質です。
- ヘモグロビンの分解: 寿命を終えた赤血球は脾臓などで破壊され、含まれるヘモグロビンは「ヘム」と「グロビン」に分解されます。
- ビリルビンの生成: ヘムはさらに分解され、「ビリルビン」という黄色い色素になります。このビリルビンは「間接ビリルビン」と呼ばれ、アルブミンと結合して血液中を肝臓へ運ばれます。
- 肝臓での処理: 肝臓に運ばれた間接ビリルビンは、グルクロン酸と結合して「直接ビリルビン」に変換されます。この直接ビリルビンは、胆汁の成分として胆管を通って十二指腸へ排泄されます。
- 腸内での変換: 十二指腸に排泄された直接ビリルビンは、腸内細菌の働きによって「ウロビリノーゲン」に変換されます。
- ウロビリノーゲンの行方: 腸内で生成されたウロビリノーゲンの大部分は、そのまま便として排泄されます(これが便の色の元の一つです)。しかし、一部のウロビリノーゲンは腸から再吸収され、再び門脈を通って肝臓に戻ります(腸肝循環)。肝臓に戻ったウロビリノーゲンのほとんどは、肝臓で再度代謝されますが、ごく少量だけが全身の血流に入り、腎臓でろ過されて尿中に排泄されます。これが尿中のウロビリノーゲンの正体です。
したがって、尿中のウロビリノーゲンの量は、赤血球の破壊、肝臓の機能、胆道の状態、そして腸内環境を反映していると考えられます。
尿中ウロビリノーゲンの基準値と結果の解釈
健康診断における尿中ウロビリノーゲンの検査結果は、通常、定性試験で行われ、「陰性(-)」「±(弱陽性)」「陽性(+、++、+++)」などで表示されます。
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正常値: 一般的に、健康な人の尿中にはごく少量のウロビリノーゲンが存在するため、「±(弱陽性)」が基準範囲内とされることが多いです。これは、前述した腸肝循環を経て尿中に排泄される微量なウロビリノーゲンを検出している状態です。完全に「陰性(-)」となることもありますが、これも病的な状態を直ちに意味するわけではありません。
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異常値(陽性 +〜+++): 基準値である±を超えて、陽性(+、++、+++)と判定された場合は、尿中に排泄されるウロビリノーゲンの量が増加していることを示します。これは、ウロビリノーゲンが生成される量が増えているか、肝臓での処理能力が低下している可能性を示唆します。
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異常値(陰性 -): 一方、基準値である±に対して、完全に陰性(-)と判定された場合も、病的な状態を示唆する可能性があります。これは、ウロビリノーゲンが腸内で十分に生成されていないか、生成されても腸管から再吸収されていない、あるいは胆汁が腸へ排泄されていない状態を示唆します。
尿中ウロビリノーゲン異常値が示す可能性
尿中ウロビリノーゲンの異常値は、ビリルビン代謝経路のどこかに問題が生じている可能性を示唆します。
尿中ウロビリノーゲンが増加(陽性)している場合
尿中ウロビリノーゲンが増加している場合、以下のような原因が考えられます。
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溶血性疾患: 赤血球が過剰に破壊される(溶血)病気の場合、ヘモグロビンの分解が増え、ビリルビンが多く生成されます。これにより、腸内で生成されるウロビリノーゲンの量も増加し、再吸収されて尿中に排泄される量も増えます。
- 可能性のある病気:溶血性貧血など
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肝機能障害: 肝臓の機能が低下している場合、腸から再吸収されて戻ってきたウロビリノーゲンを十分に処理(再代謝)できません。その結果、血中を循環するウロビリノーゲンの量が増え、尿中に排泄される量も増加します。
- 可能性のある病気:急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、薬剤性肝障害など
尿中ウロビリノーゲンが減少または陰性(-)である場合
尿中ウロビリノーゲンが減少または陰性である場合、主に以下のような原因が考えられます。
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胆道閉塞: 胆石や腫瘍などによって胆管が詰まり、胆汁が十二指腸に正常に排泄されない状態です。胆汁が腸に到達しないため、腸内細菌によるビリルビンのウロビリノーゲンへの変換が起こりません。結果として、ウロビリノーゲンが生成されず、尿中からも検出されなくなります。
- 可能性のある病気:胆石症、総胆管結石、胆管癌、膵臓癌など
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重度の肝機能障害: 肝臓の機能が非常に著しく低下している場合、ビリルビンを直接ビリルビンに変換し、胆汁として排泄する能力そのものが失われます。この場合も胆汁が腸へ十分に排泄されないため、胆道閉塞と同様にウロビリノーゲンの生成が減少し、尿中ウロビリノーゲンが陰性となることがあります。
異常値を指摘された場合の次のステップ
健康診断で尿中ウロビリノーゲンの異常(陽性または陰性)を指摘された場合、まずは慌てずに、医師の指示に従うことが重要です。尿中ウロビリノーゲンの異常は、必ずしも重篤な病気を意味するわけではありませんが、体のどこかに異常が生じている可能性を示唆しています。
再検査・精密検査
多くの場合、異常値を指摘された場合は、原因を特定するためにさらなる検査(再検査や精密検査)が推奨されます。行われる可能性のある検査としては、以下のようなものがあります。
- 血液検査:
- 肝機能検査(AST, ALT, γ-GTP, ALPなど)の詳細な評価
- ビリルビン値(総ビリルビン、直接ビリルビン、間接ビリルビン)の測定
- LDH(乳酸脱水素酵素)やハプトグロビンなど、溶血を示唆する項目の測定
- 貧血に関する検査(ヘモグロビン、ヘマトクリット、網状赤血球など)
- 画像検査:
- 腹部超音波検査:肝臓、胆嚢、胆管、膵臓などの形態的な異常や胆石の有無などを調べます。
- CT検査やMRI検査:より詳細な画像情報が必要な場合に行われることがあります。
- 尿検査: 再度、尿中ウロビリノーゲンを含む尿検査を行い、測定誤差や一時的な変動でないかを確認することもあります。
医療機関に相談する際のポイント
- 健康診断の結果を持参し、医師に具体的な数値や指摘された内容を正確に伝えてください。
- 自覚症状(体の黄ばみ(黄疸)、尿の色が濃い、便の色が薄い、全身倦怠感、腹痛など)があれば、医師に詳しく説明してください。
- 現在服用している薬がある場合は、必ず医師に伝えてください。薬剤によっては、ウロビリノーゲンの値に影響を与える可能性があります。
日常生活で気をつけること
尿中ウロビリノーゲンの異常が指摘された場合、その原因が特定されるまでは、自己判断で特別な対策を行うことは避けるべきです。医師の診断に基づいて、原因疾患に応じた適切な治療や生活指導が行われます。
例えば、肝機能障害が原因であれば、飲酒を控える、バランスの取れた食事を心がける、十分な休息をとるなどの生活習慣の見直しが推奨されることがあります。溶血性疾患や胆道閉塞などが原因であれば、それぞれの疾患に対する専門的な治療が必要です。
原因が特定されるまでは過度な心配はせず、まずは医師の指示に従い、必要な精密検査を受けることが最も重要です。
まとめ
尿中のウロビリノーゲンは、赤血球の分解や肝臓、胆道の機能、腸内環境を反映する重要な指標です。健康診断で基準値から外れた結果が出た場合は、その値が示す可能性を理解し、原因を特定するために専門医による診察や精密検査を受けることが推奨されます。異常値が出たからといって必ずしも重篤な病気とは限りませんが、体の変化に気づくための大切なサインとして捉え、適切に対応することが、健康維持への第一歩となります。ご自身の健康診断結果について疑問や不安がある場合は、医療機関にご相談ください。