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健康診断の甲状腺機能検査 TSH, FT3, FT4 異常値が示す意味と再検査のポイント

Tags: 健康診断, 甲状腺機能検査, TSH, 異常値, 再検査

健康診断の甲状腺機能検査とは?異常値が示す意味と再検査のポイント

健康診断や人間ドックで、血液検査の項目に「甲状腺機能」や「TSH」「FT4」「FT3」といった項目が含まれているのをご覧になったことがあるかもしれません。これらの項目は、私たちの体の代謝をコントロールする重要な臓器である甲状腺の働きを調べるための検査です。

甲状腺機能の検査結果に異常が見られた場合、一体何を意味するのか、病気の可能性はあるのか、次に何をすべきかと不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、健康診断における甲状腺機能検査の基本的な情報と、異常値が指摘された場合に考えられること、そして次に取るべきステップについて、専門家の視点から解説します。

甲状腺機能検査の基本的な項目とその役割

健康診断で行われる甲状腺機能検査では、主に以下の項目が測定されます。

これらのホルモンは、私たちの体温調節、エネルギー代謝、心臓や消化器の働き、精神活動など、様々な生理機能に関与しており、適切な量に保たれていることが健康維持のために重要です。

甲状腺機能検査の基準値と異常値が示す可能性

甲状腺機能検査の基準値は、検査を行う施設や測定方法によって多少異なる場合があります。健康診断の結果票に記載されている基準値をご確認ください。ここでは一般的な基準値の目安とともに、異常値が示す可能性について解説します。

| 項目 | 一般的な基準値(目安) | | :--- | :--------------------- | | TSH | 0.5 ~ 5.0 µIU/mL | | FT4 | 0.8 ~ 1.8 ng/dL | | FT3 | 2.0 ~ 4.0 pg/mL |

(※上記の基準値はあくまで目安であり、検査施設によって異なります。)

異常値が示す可能性

検査結果が基準値から外れている場合、いくつかの状態が考えられます。TSHとFT4、FT3の組み合わせで判断することが一般的です。

  1. TSHが高値、FT4/FT3が基準値内
    • これは「潜在性甲状腺機能低下症」の可能性があります。甲状腺ホルモンの分泌量がわずかに足りないため、下垂体がTSHを多く出して甲状腺を刺激しようとしている状態です。
    • 自覚症状はほとんどないことが多いですが、進行すると顕性の甲状腺機能低下症に移行することもあります。
  2. TSHが高値、FT4/FT3が低値
    • 「顕性甲状腺機能低下症」が強く疑われます。甲状腺そのものの機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌が不足している状態です。
    • 代表的な原因疾患に橋本病(慢性甲状腺炎)があります。疲れやすい、体がむくむ、寒がり、体重増加、脈が遅い、便秘、皮膚の乾燥、気力の低下などの症状が見られることがあります。
  3. TSHが低値、FT4/FT3が基準値内
    • 「潜在性甲状腺機能亢進症」の可能性があります。甲状腺ホルモンがやや過剰なため、下垂体がTSHの分泌を抑えている状態です。
    • 甲状腺以外の病気や薬の影響でTSHが低くなることもあります(非甲状腺疾患症候群など)。
  4. TSHが低値、FT4/FT3が高値
    • 「顕性甲状腺機能亢進症」が強く疑われます。甲状腺が必要以上に働き、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されている状態です。
    • 代表的な原因疾患にバセドウ病があります。動悸、手の震え、体重減少、暑がり、多汗、疲れやすい、イライラしやすい、下痢、眼球突出などの症状が見られることがあります。

ただし、上記のパターンは一般的なものであり、稀な病態や測定誤差、一時的な変動などによっても異常値が出ることがあります。健康診断の結果だけで自己判断せず、専門医の診断を仰ぐことが重要です。

異常値が出た場合の次のステップ:再検査・精密検査

健康診断で甲状腺機能検査の異常値を指摘された場合、「要再検査」や「要精密検査」の指示が出ることが多いでしょう。これは、前述のように異常値の原因を特定し、病気の有無や程度を正確に診断するために不可欠なステップです。

なぜ再検査・精密検査が必要か?

どのような精密検査が行われるか?

医療機関を受診すると、問診や診察に加えて、以下のような精密検査が行われることがあります。

受診する際のポイント

日常生活でできること

甲状腺機能の異常が指摘された場合、その原因によっては生活習慣の改善だけでは根本的な解決には繋がらないことが多いです。特に自己免疫疾患などが原因の場合は、専門医による診断と適切な治療(ホルモン補充療法や抗甲状腺薬など)が必要となります。

しかし、バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動といった規則正しい生活は、全身の健康状態を良好に保つ上で非常に重要であり、甲状腺機能の管理にも間接的に良い影響を与える可能性があります。

また、ヨウ素(ヨード)の摂取については注意が必要です。海藻類に多く含まれるヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となりますが、過剰に摂取すると甲状腺機能に悪影響を及ぼすことがあります。特に橋本病の方では、過剰なヨウ素摂取を控えることが推奨される場合があります。ただし、極端な制限は不要であり、通常の食生活であれば問題ないことがほとんどです。不安な場合は専門医に相談してください。

まとめ

健康診断で甲状腺機能検査の異常値を指摘された場合、それは甲状腺に何らかの異常があるサインである可能性があります。しかし、一時的な変動や軽微な異常であることも少なくありません。過度に心配しすぎず、必ず医療機関を受診して、再検査や精密検査を受けてください。

専門医(内分泌内科など)は、検査結果とあなたの体の状態、症状を総合的に判断し、正確な診断を下します。診断に基づき、必要な場合は適切な治療が開始されます。早期に正確な診断を受け、適切に対処することが、健康を維持するために最も大切なステップです。