健康診断の甲状腺機能検査 TSH, FT3, FT4 異常値が示す意味と再検査のポイント
健康診断の甲状腺機能検査とは?異常値が示す意味と再検査のポイント
健康診断や人間ドックで、血液検査の項目に「甲状腺機能」や「TSH」「FT4」「FT3」といった項目が含まれているのをご覧になったことがあるかもしれません。これらの項目は、私たちの体の代謝をコントロールする重要な臓器である甲状腺の働きを調べるための検査です。
甲状腺機能の検査結果に異常が見られた場合、一体何を意味するのか、病気の可能性はあるのか、次に何をすべきかと不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。ここでは、健康診断における甲状腺機能検査の基本的な情報と、異常値が指摘された場合に考えられること、そして次に取るべきステップについて、専門家の視点から解説します。
甲状腺機能検査の基本的な項目とその役割
健康診断で行われる甲状腺機能検査では、主に以下の項目が測定されます。
- TSH (甲状腺刺激ホルモン)
- 脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺に働きかけて甲状腺ホルモン(FT4, FT3)の分泌を促します。
- 甲状腺ホルモンの量が十分な場合はTSHの分泌は抑えられ、不足している場合は分泌が促進されます。いわば、甲状腺ホルモンを調整するための「司令塔」のような役割を担っています。
- FT4 (遊離サイロキシン)
- 甲状腺から分泌される主要な甲状腺ホルモンの一つです。血液中でタンパク質と結合しているものと、結合していない「遊離型」があり、実際に細胞に作用するのは遊離型(フリーT4)です。
- 体の代謝全般を促進する働きがあります。
- FT3 (遊離トリヨードサイロニン)
- 甲状腺から分泌されるホルモンですが、多くはFT4が体内でFT3に変換されて生じます。FT4よりも少量ですが、甲状腺ホルモンとしての作用はFT3の方が強力です。
- FT4と同様に代謝を促進する働きを持ちます。
これらのホルモンは、私たちの体温調節、エネルギー代謝、心臓や消化器の働き、精神活動など、様々な生理機能に関与しており、適切な量に保たれていることが健康維持のために重要です。
甲状腺機能検査の基準値と異常値が示す可能性
甲状腺機能検査の基準値は、検査を行う施設や測定方法によって多少異なる場合があります。健康診断の結果票に記載されている基準値をご確認ください。ここでは一般的な基準値の目安とともに、異常値が示す可能性について解説します。
| 項目 | 一般的な基準値(目安) | | :--- | :--------------------- | | TSH | 0.5 ~ 5.0 µIU/mL | | FT4 | 0.8 ~ 1.8 ng/dL | | FT3 | 2.0 ~ 4.0 pg/mL |
(※上記の基準値はあくまで目安であり、検査施設によって異なります。)
異常値が示す可能性
検査結果が基準値から外れている場合、いくつかの状態が考えられます。TSHとFT4、FT3の組み合わせで判断することが一般的です。
- TSHが高値、FT4/FT3が基準値内
- これは「潜在性甲状腺機能低下症」の可能性があります。甲状腺ホルモンの分泌量がわずかに足りないため、下垂体がTSHを多く出して甲状腺を刺激しようとしている状態です。
- 自覚症状はほとんどないことが多いですが、進行すると顕性の甲状腺機能低下症に移行することもあります。
- TSHが高値、FT4/FT3が低値
- 「顕性甲状腺機能低下症」が強く疑われます。甲状腺そのものの機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌が不足している状態です。
- 代表的な原因疾患に橋本病(慢性甲状腺炎)があります。疲れやすい、体がむくむ、寒がり、体重増加、脈が遅い、便秘、皮膚の乾燥、気力の低下などの症状が見られることがあります。
- TSHが低値、FT4/FT3が基準値内
- 「潜在性甲状腺機能亢進症」の可能性があります。甲状腺ホルモンがやや過剰なため、下垂体がTSHの分泌を抑えている状態です。
- 甲状腺以外の病気や薬の影響でTSHが低くなることもあります(非甲状腺疾患症候群など)。
- TSHが低値、FT4/FT3が高値
- 「顕性甲状腺機能亢進症」が強く疑われます。甲状腺が必要以上に働き、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されている状態です。
- 代表的な原因疾患にバセドウ病があります。動悸、手の震え、体重減少、暑がり、多汗、疲れやすい、イライラしやすい、下痢、眼球突出などの症状が見られることがあります。
ただし、上記のパターンは一般的なものであり、稀な病態や測定誤差、一時的な変動などによっても異常値が出ることがあります。健康診断の結果だけで自己判断せず、専門医の診断を仰ぐことが重要です。
異常値が出た場合の次のステップ:再検査・精密検査
健康診断で甲状腺機能検査の異常値を指摘された場合、「要再検査」や「要精密検査」の指示が出ることが多いでしょう。これは、前述のように異常値の原因を特定し、病気の有無や程度を正確に診断するために不可欠なステップです。
なぜ再検査・精密検査が必要か?
- 一時的な変動や測定誤差: 採血時の体調や測定のわずかな誤差によって、一時的に基準値から外れることがあります。再検査で確認することで、その異常が持続的なものかを見極めます。
- 病態の確定: 異常値が確認された場合、その原因となっている疾患(橋本病、バセドウ病、亜急性甲状腺炎、甲状腺腫瘍など)を特定する必要があります。
- 治療方針の決定: 疾患が確定した場合、その病態や重症度に応じて適切な治療方針を立てるために、さらに詳しい検査が必要になります。
どのような精密検査が行われるか?
医療機関を受診すると、問診や診察に加えて、以下のような精密検査が行われることがあります。
- 採血による追加検査:
- 甲状腺自己抗体検査: 橋本病やバセドウ病といった自己免疫性の甲状腺疾患が疑われる場合、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、TSHレセプター抗体などの有無や量を調べます。
- その他の関連ホルモン検査: 副腎皮質ホルモンなど、他のホルモン系の異常が疑われる場合に追加で検査することがあります。
- 甲状腺超音波(エコー)検査:
- 甲状腺の大きさ、形、内部の状態(腫瘍や炎症の有無、大きさ、性質など)を詳細に調べます。橋本病では甲状腺が腫れていたり内部が不均一に見えたり、バセドウ病では全体的に腫れて血流が増加している様子などが確認されることがあります。また、甲状腺がんなどの腫瘍性病変の発見にも有効です。
- その他の画像検査: 必要に応じて、CTやMRI、シンチグラフィ(放射性ヨウ素などを用いた検査)が行われることもあります。
- 穿刺吸引細胞診: 超音波検査で腫瘍が見つかった場合など、病変の一部にごく細い針を刺して細胞を採取し、悪性か良性かを顕微鏡で調べる検査です。
受診する際のポイント
- 健康診断の結果票を必ず持参してください。 これまでの数値の推移なども重要な情報になります。
- 自覚症状があれば、医師に具体的に伝えてください。 疲れやすさ、体重の変化、動悸、むくみ、のどの違和感など、どんな些細なことでも構いません。
- 現在服用している薬があれば、すべて医師に知らせてください。 薬の中には甲状腺機能に影響を与えるものもあります。
- 妊娠を希望している、あるいは妊娠している場合は必ず伝えてください。 甲状腺機能の異常は妊娠に影響を与えることがあり、適切な管理が必要です。
日常生活でできること
甲状腺機能の異常が指摘された場合、その原因によっては生活習慣の改善だけでは根本的な解決には繋がらないことが多いです。特に自己免疫疾患などが原因の場合は、専門医による診断と適切な治療(ホルモン補充療法や抗甲状腺薬など)が必要となります。
しかし、バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動といった規則正しい生活は、全身の健康状態を良好に保つ上で非常に重要であり、甲状腺機能の管理にも間接的に良い影響を与える可能性があります。
また、ヨウ素(ヨード)の摂取については注意が必要です。海藻類に多く含まれるヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となりますが、過剰に摂取すると甲状腺機能に悪影響を及ぼすことがあります。特に橋本病の方では、過剰なヨウ素摂取を控えることが推奨される場合があります。ただし、極端な制限は不要であり、通常の食生活であれば問題ないことがほとんどです。不安な場合は専門医に相談してください。
まとめ
健康診断で甲状腺機能検査の異常値を指摘された場合、それは甲状腺に何らかの異常があるサインである可能性があります。しかし、一時的な変動や軽微な異常であることも少なくありません。過度に心配しすぎず、必ず医療機関を受診して、再検査や精密検査を受けてください。
専門医(内分泌内科など)は、検査結果とあなたの体の状態、症状を総合的に判断し、正確な診断を下します。診断に基づき、必要な場合は適切な治療が開始されます。早期に正確な診断を受け、適切に対処することが、健康を維持するために最も大切なステップです。