健康診断 脂肪肝 専門家解説 その意味と対策
健康診断で「脂肪肝」と指摘され、不安を感じている方は少なくないでしょう。脂肪肝とは、肝臓に過剰な脂肪が蓄積した状態を指します。近年の食生活やライフスタイルの変化に伴い、日本でも健康診断で脂肪肝を指摘される方が増加傾向にあります。
この状態が何を意味するのか、どのようなリスクがあるのか、そして改善のために何ができるのかについて、専門家の視点から解説します。
脂肪肝とは何か? 専門的な定義と分類
脂肪肝は、肝臓の細胞の30%以上に脂肪が蓄積した状態と定義されます。健康診断では、主に腹部超音波検査やCT検査で肝臓が白っぽく映る(高輝度)ことで指摘されることが多く、同時に肝機能を示すAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPといった酵素の値が上昇している場合もあります。
脂肪肝は、その原因によって大きく二つに分類されます。
- アルコール性脂肪肝: 過剰なアルコール摂取が原因で起こる脂肪肝です。
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD - Non-Alcoholic Fatty Liver Disease): アルコール以外の原因(肥満、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなど)で起こる脂肪肝です。健康診断で見つかる脂肪肝の多くはこちらに該当します。
さらに、NAFLDは病気の進行リスクによって以下のように分類されます。
- 単純性脂肪肝: 肝臓に脂肪は蓄積しているものの、炎症や線維化(組織が硬くなること)があまり見られない状態です。比較的進行しにくいとされています。
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH - Non-Alcoholic Steatohepatitis): 脂肪蓄積に加えて、肝臓に炎症や線維化が見られる状態です。NASHは、放置すると肝硬変や肝がんへと進行する可能性があるため、より注意が必要です。
健康診断の段階で、単純性脂肪肝なのかNASHなのかを確定診断することは難しい場合が多く、精密検査が必要となることがあります。
なぜ脂肪肝になるのか? 主な原因とメカニズム
脂肪肝の最大の原因は、摂取カロリーが消費カロリーを上回り、余分なエネルギーが中性脂肪として肝臓に蓄積することです。具体的には、以下のような要因が関連しています。
- 過食: 特に糖質や脂質の摂りすぎ。
- 運動不足: 消費カロリーが少なくなり、脂肪が蓄積しやすくなります。
- 肥満: 特に内臓脂肪型肥満は脂肪肝と強く関連します。
- 糖尿病、脂質異常症、高血圧: これらのメタボリックシンドロームを構成する要素は、インスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くなること)を介して肝臓への脂肪蓄積を促進します。
- 急速なダイエット: 短期間での急激な体重減少も、肝臓に負担をかけ脂肪肝を招くことがあります。
- 特定の薬剤: 一部の薬剤が脂肪肝を引き起こす可能性も報告されています。
これらの要因が複合的に作用し、肝臓での脂肪の合成が増加したり、脂肪の分解・運び出しが低下したりすることで脂肪肝が発生します。
脂肪肝を放置するリスク
「脂肪肝と言われたけど特に症状がないから大丈夫」と放置してしまうのは危険な場合があります。特にNASHに進行している場合、自覚症状がないまま病気が進行し、以下のような深刻な状態に至る可能性があります。
- 肝硬変: 肝臓の組織が線維化し、硬く小さくなった状態です。一度肝硬変になると、肝機能の回復は難しくなります。
- 肝がん: 肝硬変から肝がんが発生するリスクが高まります。NASH自体からも直接肝がんが発生することがあります。
- 肝不全: 肝臓の機能が著しく低下し、生命維持が困難になる状態です。
また、脂肪肝は肝臓だけの問題に留まりません。脂肪肝を持つ人は、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などの病気のリスクも高いことがわかっています。脂肪肝は、全身の健康状態を示すサインの一つとも言えるのです。
健康診断で脂肪肝を指摘されたら次にすべきこと
健康診断で脂肪肝(腹部エコー所見や肝機能数値異常など)を指摘された場合、最も重要なのは医療機関を受診し、専門家(医師)の診察を受けることです。
医師は、健康診断の結果に加えて、問診(飲酒量、生活習慣、既往歴、服用薬など)や血液検査(肝機能、脂質、血糖値、ウイルス性肝炎の有無など)を行います。必要に応じて、より詳細な画像検査(造影CT、MRIなど)や、肝臓の硬さを測定する検査(エラストグラフィなど)が実施されることもあります。これらの検査を通じて、脂肪肝の原因が何か、そしてNASHの可能性や線維化の程度などを評価します。
自己判断で済ませず、必ず医療機関に相談してください。特に、肝機能数値が高い場合や、糖尿病・脂質異常症などの持病がある場合は、より詳細な検査が必要となる可能性が高いです。
脂肪肝の対策・改善策 専門家からのアドバイス
脂肪肝、特にNAFLDに対する最も効果的で基本的な対策は、生活習慣の改善です。薬物療法も存在しますが、これは一部の病態に対して医師の判断で行われるものであり、生活習慣改善が治療の根幹となります。
1. 食事の見直し
- 摂取カロリーの適正化: 標準体重に見合ったカロリー摂取を心がけ、食べ過ぎを防ぎます。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りをなくし、特に果糖を含む清涼飲料水や加工食品、菓子類、過剰な動物性脂肪の摂取を控えることが重要です。食物繊維を豊富に含む野菜、きのこ類、海藻類、全粒穀物を積極的に摂りましょう。
- ゆっくり食べる: 早食いは血糖値を急上昇させやすく、脂肪蓄積につながります。よく噛んでゆっくり食べることを意識しましょう。
2. 運動習慣の確立
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳など、脂肪燃焼を促す有酸素運動を、週に3〜5回、1回あたり30分以上行うことを目指しましょう。
- 筋力トレーニング: 基礎代謝を上げ、脂肪を燃焼しやすい体を作るために、スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングも取り入れると効果的です。
- 「座りっぱなし」を避ける: 長時間座っていると、運動不足につながります。こまめに立ち上がって体を動かすように心がけましょう。
3. 適正体重の維持
現在の体重から5〜10%の減量を目指すことで、肝臓の脂肪が減少し、肝機能が改善することが多くの研究で示されています。急激な減量は避け、無理のない範囲で継続的な減量に取り組みましょう。
4. アルコール摂取量の管理
アルコール性脂肪肝の場合は、禁酒が最も重要です。NAFLDの場合も、アルコールは肝臓に負担をかけるため、可能な限り控えることが推奨されます。
5. 基礎疾患の管理
糖尿病、脂質異常症、高血圧などの基礎疾患がある場合は、それぞれの疾患の適切な管理(治療、服薬遵守、生活習慣改善)を行うことが、脂肪肝の改善にもつながります。
まとめ:脂肪肝指摘は健康を見直す良い機会
健康診断で脂肪肝を指摘されたことは、ご自身の健康状態、特に生活習慣を見直すための重要なサインです。多くの場合、早期に適切な対策をとることで、脂肪肝は改善が期待できます。しかし、一部にはNASHのように進行性の病態も含まれており、放置すると深刻な事態を招く可能性もあります。
不安を抱えたまま自己判断せず、まずは医療機関を受診して専門家の診断を受けましょう。そして、医師の指導のもと、食生活や運動習慣の改善に積極的に取り組むことが、脂肪肝の改善と、将来のより深刻な病気の予防につながります。ご自身の体の声に耳を傾け、健康的な未来のために一歩を踏み出しましょう。