健康診断の視力検査 基準値と結果の意味 専門家解説
健康診断における視力検査の目的と重要性
健康診断で行われる視力検査は、単に「よく見えるか、見えないか」を確認するだけではありません。眼の屈折異常(近視、遠視、乱視)や調節機能の異常といった視機能の問題に加え、時には全身疾患のサインとして視力低下が現れることがあるため、重要な検査項目の一つと位置づけられています。特に、近年増加傾向にある糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、進行すると眼の血管や神経に影響を及ぼし、視力低下を招くことがあります。
知的好奇心が高く、健康診断結果を深く読み解きたいとお考えの皆様にとって、視力検査の結果が持つ意味や、基準値を外れた場合に考えられること、そして次に取るべき行動について正確に理解することは、健康管理において非常に有益となるでしょう。ここでは、健康診断の視力検査について、専門家の視点から詳しく解説いたします。
視力検査の基本的な基準値
健康診断で一般的に行われる視力検査では、「裸眼視力」と「矯正視力」を測定します。
- 裸眼視力: 眼鏡やコンタクトレンズを使用せずに測定した視力です。
- 矯正視力: 眼鏡やコンタクトレンズを使用して測定した視力です。
多くの健康診断において、視力に関して特に問題がないとされる目安は、両眼または片眼の矯正視力が0.7以上、かつ両眼視力が0.7以上とされています。ただし、この基準はあくまで一般的な目安であり、運転免許取得時の基準など、目的によって求められる視力は異なります。
視力低下が示す意味とは
健康診断で視力低下が指摘された場合、最も一般的な原因は屈折異常です。
- 近視: 遠くが見えにくい状態です。
- 遠視: 近くが見えにくい状態ですが、程度によっては遠くも見えにくくなります。
- 乱視: 物が二重に見えたり、ぼやけて見えたりする状態です。
これらの屈折異常は、眼鏡やコンタクトレンズで矯正することで視力を改善できる場合が多いです。
しかし、視力低下は屈折異常だけでなく、以下のような眼疾患や全身疾患によって引き起こされる可能性も示唆しています。
- 白内障: 眼の中のレンズ(水晶体)が濁り、視力が低下します。多くは加齢によって起こります。
- 緑内障: 視神経に障害が起こり、視野が狭くなる病気です。進行すると視力も低下します。眼圧が高いことが主な原因ですが、眼圧が正常でも起こることがあります。
- 加齢黄斑変性: 網膜の中心部(黄斑)に障害が起こり、視力や視野に影響が出ます。
- 糖尿病網膜症: 糖尿病の合併症として、網膜の血管が障害される病気です。進行すると視力低下や失明に至る可能性があります。
- 高血圧性網膜症: 高血圧により網膜の血管に障害が起こる病気です。
- その他の網膜疾患や視神経疾患: 網膜剥離、網膜静脈閉塞症、視神経炎など。
健康診断で視力低下が指摘された場合、単なる眼鏡が合わないということだけでなく、これらの疾患の初期段階である可能性も考慮する必要があります。
精密検査が必要となるケース
健康診断の結果で「要精密検査」や「要医療」と判定されるのは、一般的に以下のようなケースです。
- 矯正視力でも基準値(例: 0.7)に満たない場合: 屈折異常だけでは説明できない、他の原因による視力障害が疑われます。
- 裸眼視力が著しく低いにもかかわらず、矯正視力が測定されなかった、または不明な場合: 適切な矯正を行っても視力が出ない可能性や、眼鏡等の装用状況が不明な場合があります。
- 左右の視力に大きな差がある場合: 片眼に何らかの異常が隠れている可能性があります。
- 過去の健診結果と比較して、視力が明らかに低下している場合: 視力低下の進行速度も診断の手がかりとなります。
これらのケースでは、眼科専門医による精密検査が推奨されます。
精密検査で何が行われるか
眼科での精密検査では、健康診断の簡易的な検査では分からない詳細な状態を調べます。一般的な精密検査には以下のようなものがあります。
- 詳細な視力検査: 健康診断よりも精度高く、様々な条件での視力(裸眼視力、矯正視力、ピンホール視力など)を測定します。
- 屈折検査: 近視、遠視、乱視の度数を正確に測定します。
- 眼圧検査: 緑内障の可能性を調べるために眼圧を測定します。
- 眼底検査: 瞳孔を開く目薬を点眼し、眼の奥にある網膜や視神経の状態を詳しく観察します。糖尿病網膜症や高血圧性網膜症、緑内障、加齢黄斑変性などの診断に非常に重要です。
- 細隙灯顕微鏡検査(スリットランプ検査): 眼の表面(角膜や結膜)、前眼房、水晶体などを拡大して詳細に観察します。白内障などの診断に有用です。
- 視野検査: 緑内障などで失われた視野の範囲を測定します。
- その他: 必要に応じて、光干渉断層計(OCT)による網膜断層撮影、蛍光眼底造影検査、電気生理学的検査などが行われることもあります。
これらの精密検査により、視力低下の原因が屈折異常だけなのか、それとも何らかの眼疾患や全身疾患が関与しているのかを特定し、適切な診断と治療方針を立てることができます。
日常生活でできることと医療機関への相談
健康診断で視力低下が指摘された場合、まずは精密検査を勧められたら速やかに眼科を受診することが最も重要です。自覚症状がなくても、早期発見・早期治療が重要な病気(特に緑内障や糖尿病網膜症など)も少なくありません。
また、日常生活においては、以下のような点に注意することが眼の健康維持につながります。
- 長時間の近業作業(スマホ、PCなど)を避ける: 適度に休憩を取り、遠くを見る時間を設けることが推奨されます。
- バランスの取れた食事: 眼の健康に良いとされる栄養素(ビタミンA, C, E, ルテイン, ゼアキサンチン, オメガ3脂肪酸など)を意識的に摂取しましょう。
- 禁煙: 喫煙は加齢黄斑変性などのリスクを高めることが知られています。
- 紫外線対策: 強い日差しの下ではサングラスなどを着用し、眼を紫外線から保護しましょう。
- 全身疾患の管理: 糖尿病や高血圧と診断されている場合は、主治医の指示に従い、血糖値や血圧を適切に管理することが、眼の合併症予防につながります。
健康診断の視力検査結果は、ご自身の眼の健康状態を知る重要な手がかりです。結果を真摯に受け止め、必要に応じて精密検査を受け、日頃から眼のケアや全身の健康管理に努めることが大切です。ご自身の視力や眼の状態についてご不安な点があれば、遠慮なく眼科医にご相談ください。