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健康診断 ピロリ菌検査 陽性の場合の意味と次のステップ 専門家解説

Tags: 健康診断, ピロリ菌, 胃がん, 除菌, 精密検査

健康診断のピロリ菌検査:陽性結果が示す意味と適切な次のステップ

健康診断のオプション項目として、ヘリコバクター・ピロリ菌(通称ピロリ菌)の検査が提供されることがあります。この検査で「陽性」という結果を受け取った場合、多くの方が不安を感じられることでしょう。ピロリ菌が胃の疾患と深く関わっていることは広く知られていますが、具体的にどのようなリスクがあり、次にどのような行動を取るべきなのか、専門家の立場から詳しく解説いたします。

ピロリ菌とは何か? なぜ検査が必要なのか?

ピロリ菌は、ヒトの胃の粘膜に生息するらせん形をした細菌です。胃の中は強い酸性であるため、多くの細菌は生息できませんが、ピロリ菌は自らアルカリ性の物質を作り出すことで胃酸から身を守り、胃の中で生き続けることができます。

ピロリ菌の感染は、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の主要な原因の一つであることが明らかになっています。さらに重要なのは、ピロリ菌感染が胃がん発生の最も重要なリスク因子であるということです。日本人の胃がんの約99%はピロリ菌感染が関連していると推定されており、感染している方の胃がん発生リスクは、感染していない方と比較して約5倍にもなると言われています。

このため、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べ、陽性であれば除菌治療を行うことは、胃潰瘍や胃がんといった将来の重篤な病気を予防するために非常に有効な手段と考えられています。

健康診断で実施されるピロリ菌検査の方法

健康診断のオプションとして一般的に行われるピロリ菌検査には、主に以下の方法があります。

健康診断では、主に血液検査や尿検査による抗体検査が採用されていることが多いようです。どの方法で検査を受けたかを確認しておくことも、結果を解釈する上で参考になります。

ピロリ菌検査「陽性」が示す意味

健康診断でピロリ菌検査が「陽性」と判定された場合、これは現在または過去にピロリ菌に感染している可能性が高いことを意味します。特に抗体検査で陽性となった場合は、現在の感染だけでなく、過去の感染(既に除菌済みであるにも関わらず抗体が残っている)の可能性も考慮する必要があります。

しかし、いずれの検査方法であっても陽性であるということは、少なくとも過去にピロリ菌が存在したか、または現在も感染している状態であり、胃炎や胃潰瘍、そして胃がんのリスクを抱えているという重要なサインです。

陽性結果が出たこと自体が直ちに病気であるというわけではありませんが、ピロリ菌感染は放置すると胃の粘膜に慢性の炎症を引き起こし、徐々に粘膜が萎縮していく(萎縮性胃炎)など、将来的な病気につながる可能性が高い状態と言えます。

ピロリ菌陽性だった場合の適切な次のステップ:医療機関での精密検査

健康診断でピロリ菌検査が陽性だった場合は、結果を持参して速やかに消化器内科などの医療機関を受診することをお勧めします。専門医による精密検査を受け、現在の胃の状態を正確に把握し、必要であれば適切な治療(除菌治療)に進むことが非常に重要です。

医療機関では、通常、以下の精密検査が検討されます。

  1. 胃内視鏡検査(胃カメラ): 胃内視鏡検査は、胃の粘膜の状態を直接観察するための最も重要な検査です。ピロリ菌による慢性胃炎の程度(粘膜の萎縮や腸上皮化生など)や、胃潰瘍、胃がんの有無などを詳しく調べることができます。ピロリ菌感染と診断され除菌治療を行う際には、通常、治療前に胃内視鏡検査を受けておくことが推奨されています。これは、ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となる要件の一つでもあり、また、胃がんの早期発見のためにも不可欠だからです。内視鏡検査時に組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べたり、ピロリ菌の存在を直接確認する検査(迅速ウレアーゼ試験や病理組織検査など)を行うこともあります。

  2. その他のピロリ菌検査(感染診断): 健康診断の抗体検査で陽性だった場合など、現在の感染の有無をより確実に診断するために、前述の尿素呼気試験や便中抗原検査などが改めて行われることがあります。

これらの精密検査の結果に基づいて、医師が総合的に判断し、診断を確定します。ピロリ菌に現在も感染しており、かつ胃炎などの所見が認められる場合は、除菌治療の対象となります。

除菌治療について

ピロリ菌の除菌治療は、一般的に2種類の抗生物質と胃酸の分泌を抑える薬の合計3種類の薬を、通常1週間服用することで行われます。正しく服用すれば、1回目の治療での除菌成功率は70~80%程度とされています。1回で除菌できなかった場合でも、薬の種類を変えて2回目の除菌治療を行うことが可能であり、2回目まで含めると9割以上の人が除菌に成功すると報告されています。

除菌治療が成功すると、胃の炎症が改善に向かい、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発を予防できます。また、胃がんの発生リスクも、除菌しなかった場合と比較して大幅に低下することが期待できます。ただし、除菌に成功しても、ピロリ菌感染によって既に生じた胃の粘膜の変化(萎縮や腸上皮化生など)が完全には元に戻らないこともあります。そのため、除菌後も定期的な胃内視鏡検査による経過観察が推奨されます。

まとめ:陽性結果を健康管理の機会に

健康診断でピロリ菌検査が陽性だったという結果は、確かに驚きや不安を感じるかもしれません。しかし、これはご自身の胃の状態を知る貴重な機会であり、将来の胃の病気を予防するための早期発見・早期治療への第一歩となります。

ピロリ菌感染が確認された場合は、放置せずに必ず消化器内科を受診し、専門医の診断のもと、適切な精密検査や除菌治療を受けてください。除菌に成功しても、定期的な内視鏡検査は重要です。

ご自身の健康を守るために、健康診断の結果を真摯に受け止め、必要な次のステップを踏み出しましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。必ず医療機関で医師の診断を受けてください。