健康診断の尿検査 血尿(潜血・沈渣)が示す意味 原因と精密検査のポイント
健康診断で「血尿」を指摘されたら?その意味と専門家からのアドバイス
健康診断の尿検査で、「尿潜血陽性」や「尿沈渣で赤血球が検出された」という結果を受け取られ、ご心配されている方もいらっしゃるかと存じます。これは一般的に「血尿」と呼ばれ、尿の中に血液が混ざっている状態を示しています。しかし、一言で血尿といっても、その原因は様々であり、必ずしも重篤な病気を意味するわけではありません。
本記事では、健康診断で指摘される血尿について、専門家の視点からその意味、考えられる原因、そして次にどのような対応が必要になるのかを詳しく解説いたします。
血尿とは何か?肉眼的血尿と顕微鏡的血尿
血尿には大きく分けて二つの種類があります。
- 肉眼的血尿: ご自身の目で見て、尿の色が赤や茶色に変色しているのが分かる状態です。これは比較的多くの血液が混ざっている場合に起こります。
- 顕微鏡的血尿: 尿の色は正常に見えますが、顕微鏡で尿を調べると赤血球が検出される状態です。健康診断で指摘される血尿の多くはこの顕微鏡的血尿にあたります。尿潜血検査は、尿に含まれるヘモグロビン(赤血球中の色素)に反応するため、赤血球が壊れていても陽性となることがあります。一方、尿沈渣検査は、尿を遠心分離して沈殿物を顕微鏡で観察するため、赤血球の形状や他の成分(白血球、円柱など)の有無も確認できます。このため、尿沈渣で赤血球が確認されることは、より確実な血尿の所見と言えます。
健康診断での尿検査では、まず手軽な尿潜血検査が行われ、陽性の場合に尿沈渣検査で確認されることが多いです。
尿潜血・尿沈渣で赤血球が検出される意味
尿の中に赤血球が検出されるということは、尿が作られる腎臓から、尿が体外へ排出されるまでの通り道である尿路(尿管、膀胱、尿道)のどこかで出血がある可能性を示唆しています。
ただし、健康診断での顕微鏡的血尿には、病気以外の原因で一時的に見られる場合もあります。例えば、女性の生理期間中、激しい運動の後、あるいは特定の薬剤の服用などが挙げられます。これらの生理的な要因や一時的な要因を除外するために、多くの場合、再検査が推奨されます。
血尿の主な原因疾患
血尿の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて「腎臓からの血尿」と「尿路からの血尿」に分類されます。
1. 腎臓からの血尿
腎臓は尿を作る臓器であり、非常に細かい血管(糸球体)が集まっています。この糸球体に炎症などが起こると、赤血球が濾過されて尿中に漏れ出て血尿の原因となることがあります。
- 腎炎(糸球体腎炎など): 腎臓の糸球体に炎症が起こる病気です。血尿とともに、尿タンパクや腎機能の低下(クレアチニン値の上昇など)を伴うことがあります。IgA腎症などが代表的です。
- 遺伝性腎疾患: アルポート症候群など、遺伝子の異常により腎臓の構造に異常が生じる病気です。
- 腎腫瘍: 腎臓に発生する腫瘍(良性または悪性)が出血を伴うことがあります。
- 多発性嚢胞腎: 腎臓に多数の嚢胞(水の袋)ができる遺伝性疾患です。
腎臓からの血尿は、しばしば尿沈渣で「変形した赤血球(奇形赤血球)」や「赤血球円柱」が観察されることが特徴です。
2. 尿路からの血尿
尿が腎臓から膀胱を経て体外に出るまでの通り道で出血が起こる場合です。
- 尿路結石: 腎臓、尿管、膀胱などに石ができる病気です。石が尿路を傷つけることで出血や強い痛みを伴います。
- 膀胱炎などの尿路感染症: 細菌などが尿路に感染し、炎症を起こすことで出血や頻尿、排尿時痛などを伴います。
- 尿路腫瘍: 腎盂、尿管、膀胱、尿道に発生する腫瘍(良性または悪性)です。特に膀胱がんや腎盂がん・尿管がんでは、痛みを伴わない肉眼的血尿が重要なサインとなることがあります。喫煙歴のある方や特定の化学物質に曝露した経験のある方はリスクが高いとされています。
- 前立腺疾患: 男性の場合、前立腺肥大症や前立腺がんが出血の原因となることがあります。
- 外傷: 尿路への物理的な損傷。
- その他の原因: 薬剤(抗凝固薬など)、過度の運動、月経などが挙げられます。
尿路からの血尿では、尿沈渣で「正常な形の赤血球(正形赤血球)」が観察されることが多い傾向にあります。
血尿を指摘されたら、専門家としてどう考えるか?
健康診断で顕微鏡的血尿を指摘された場合、私たちは以下の点を考慮し、次に必要なステップを判断します。
- 所見の確実性: 尿潜血単独か、尿沈渣でも赤血球が確認されたか。尿沈渣で確認された方が、より確実な血尿と判断します。
- 血尿以外の異常所見の有無: 尿タンパク、白血球、円柱などの有無、腎機能検査(クレアチニン、eGFRなど)の異常、貧血の有無など、他の検査項目と総合的に判断します。例えば、血尿と同時に尿タンパクや腎機能の低下が見られる場合は、腎臓疾患の可能性が高まります。
- 自覚症状の有無: 排尿時痛、頻尿、腹痛、背部痛などの症状があるか確認します。症状がある場合は、尿路感染症や尿路結石などの可能性が考えられます。
- 年齢、性別、既往歴、喫煙歴など: 高齢男性における前立腺疾患、喫煙歴のある方における尿路腫瘍のリスクなどを考慮に入れます。
これらの情報を総合的に判断した上で、再検査で血尿が持続するかを確認したり、より詳細な精密検査が必要かを判断します。
精密検査で何が行われるか?
血尿の原因を特定するために必要な精密検査は、疑われる原因や他の検査結果によって異なりますが、一般的に以下のような検査が行われます。
- 詳細な尿検査: より詳しく尿中の成分(赤血球の形態、他の細胞、細菌など)を調べたり、尿細胞診(尿中にがん細胞がないかを調べる検査)を行ったりします。
- 血液検査: 腎機能(クレアチニン、eGFRなど)、炎症反応(CRPなど)、貧血の有無などを再確認します。
- 画像検査:
- 腹部超音波検査(エコー): 腎臓や膀胱、前立腺などの形状や結石、腫瘍の有無などを調べます。簡便で体に負担が少ない検査です。
- 腹部X線検査: 特に尿路結石の診断に有用です。
- CT検査/MRI検査: 腎臓や尿路の詳細な構造、腫瘍の広がりなどをより詳しく調べることができます。造影剤を使用する場合もあります。
- 膀胱鏡検査: 膀胱内に内視鏡を挿入し、膀胱の壁や粘膜を直接観察する検査です。膀胱炎や膀胱がんの診断に非常に重要です。
- 腎生検: 腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる検査です。腎炎など、腎臓自体の病気を確定診断するために行われます。
これらの精密検査を通じて、血尿の原因が特定され、適切な治療方針が立てられます。
血尿を指摘されたら、まずどうすべきか?
健康診断で血尿を指摘された場合、最も重要なことは、自己判断で放置せず、医療機関を受診して専門医に相談することです。特に、血尿が繰り返し検出される場合や、他の異常所見(尿タンパク、腎機能低下など)を伴う場合、あるいは排尿時痛や背部痛などの症状がある場合は、早めに受診してください。
多くの場合、まずはかかりつけ医や内科医に相談し、必要に応じて泌尿器科や腎臓内科といった専門科を紹介してもらう流れになります。
受診時には、健康診断の結果を必ず持参し、医師に提示してください。また、いつから血尿を指摘されているか、生理や激しい運動など一時的な要因の可能性はないか、他に気になる症状はないかなどを具体的に伝えることが、診断の助けとなります。
まとめ
健康診断で指摘される血尿(尿潜血陽性、尿沈渣赤血球検出)は、腎臓や尿路のどこかからの出血を示唆するサインです。一時的な生理的要因で起こることもありますが、腎炎、尿路結石、尿路腫瘍など、早期発見・治療が重要な病気が原因となっている可能性もあります。
血尿を指摘された場合は過度に心配しすぎず、しかし軽視もせずに、必ず医療機関を受診し、専門医の診察を受けることをお勧めいたします。適切な検査によって原因を特定し、ご自身の健康状態を正しく把握することが、安心して生活を送るための第一歩となります。
【免責事項】 本記事は、健康診断で血尿を指摘された方が、その結果について一般的な知識を得ることを目的として提供されています。個々の病状や治療法については、必ず医師の診断を受け、その指導に従ってください。本記事の情報のみに基づいて、ご自身の判断で受診しない、あるいは治療を中断するなどの行為は行わないでください。