健康診断の心電図異常所見 Q波・ST変化など 具体的な意味と次のステップ
健康診断の心電図検査で異常を指摘されたら?専門家が解説するその意味
健康診断で行われる心電図検査は、心臓の電気的な活動を波形として記録し、心臓の機能や異常を捉えるための重要な検査です。この検査で異常所見が指摘された場合、「この波形は何を意味するのだろうか」「何か重大な病気の可能性があるのか」といった不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、健康診断で指摘されやすい心電図の異常所見について、専門家の視点からその具体的な意味と、次に取るべきステップについて詳しく解説します。
心電図検査でわかること
心電図検査は、心臓が拍動する際に発生する微弱な電気信号を体表面で捉え、波形として記録する検査です。この波形から、以下の情報を読み取ることができます。
- 心臓の拍動リズム: 規則正しいリズムか、不規則なリズム(不整脈)があるか。
- 心臓の拍動数: 脈が速すぎる(頻脈)か、遅すぎる(徐脈)か。
- 心臓を栄養する血管(冠動脈)の血流状態: 心筋への血流が滞っていないか(虚血性心疾患の可能性)。
- 心筋の状態: 心筋が厚くなっていないか(心肥大)、過去に心筋梗塞を起こしていないか。
これらの情報を総合的に評価することで、様々な心臓の病気や状態の可能性を探ることができます。
健康診断で指摘されやすい具体的な異常所見とその意味
心電図の波形はP波、QRS波、T波などから構成されており、それぞれの形や時間、高さに異常がないかを評価します。健康診断で比較的よく指摘される代表的な異常所見とその一般的な意味は以下の通りです。
1. 不整脈(期外収縮、ブロック、頻脈、徐脈など)
心臓の電気的な活動に乱れがあり、心臓の拍動リズムが不規則になったり、拍動数が正常範囲から外れたりする状態です。
- 期外収縮: 本来のタイミングとは異なるタイミングで拍動が起きるものです。「飛ぶような感じ」「ドキッとする感じ」といった自覚症状を伴うこともありますが、多くは無症状です。健康な方でもストレスや疲労、カフェインの摂取などで起こることがあり、単発的で回数が少なければ心配ないことが多いです。しかし、連発したり、ある種の心臓病が隠れていたりする場合もあるため、その種類や頻度によっては精密検査が必要となります。
- ブロック: 心臓内の電気信号の伝達が遅れたり、途絶えたりする状態です。「洞房ブロック」「房室ブロック」「脚ブロック」など様々な種類があります。軽いものであれば問題ないことも多いですが、重度の房室ブロックなどは脈が極端に遅くなり、失神などの原因となる場合があり、ペースメーカー治療が必要になることもあります。脚ブロック自体はそれ単独では症状がないことが多いですが、心臓病が隠れている可能性もあります。
- 頻脈・徐脈: 安静時の脈拍が異常に速い(一般的に100回/分以上)のが頻脈、異常に遅い(一般的に50回/分未満)のが徐脈です。どちらも生理的な範囲内で起こることもありますが、病的な頻脈や徐脈は動悸、息切れ、めまい、失神などの原因となり、原因の検索や治療が必要となります。
2. ST-T変化
心電図のST部分やT部分の波形に変化が見られる状態です。この変化は、心筋に十分な酸素や栄養が供給されていない状態、すなわち心筋虚血の可能性を示唆することがあります。
- 心筋虚血: 冠動脈の狭窄などにより心筋への血流が不足している状態です。典型的な症状は労作時の胸の痛み(狭心症)ですが、無症状の場合もあります。ST-T変化が認められた場合は、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の可能性を詳しく調べるための精密検査(運動負荷心電図、心エコー、冠動脈CTなど)が必要となることが一般的です。
3. Q波
心電図のQRS波の一部であるQ波が、特定の誘導で異常に深くまたは広くなっている状態です。この異常Q波は、過去に心筋梗塞を起こし、その部分の心筋が壊死してしまった可能性を示唆する重要な所見です。
- 陳旧性心筋梗塞: 過去に心筋梗塞を起こした痕跡です。自覚症状がない場合でも、心電図で異常Q波が認められ、心筋梗塞の既往が疑われる場合は、心臓の機能評価や今後の再発予防のために医療機関での精密検査や経過観察が必要です。
4. その他の所見
上記以外にも、以下のような所見が指摘されることがあります。
- 心室肥大: 心臓の壁(特に左心室)が厚くなっている可能性を示唆する所見です。高血圧などが原因で起こることがあります。心エコー検査などで詳しく評価されます。
- 軸偏位: 心臓の電気的な軸が正常範囲からずれている状態です。心臓の向きや形、心室肥大などを示唆することがあります。
- Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群: 心臓内に電気信号の通り道が余分に存在し、頻脈発作を起こしやすい体質を示す所見です。
異常所見を指摘された場合の次のステップ
健康診断の判定区分は、「異常なし」「要経過観察」「要医療機関受診(または要精密検査)」などがあります。心電図で異常所見が指摘された場合の対応は、その所見の種類や程度、そして健康状態によって異なります。
要経過観察
軽微な異常で、現時点では治療や精密検査の緊急性が低いと判断された場合です。ただし、これは「問題ない」ということではなく、「今後注意深く見ていく必要がある」という意味です。指摘された内容によっては、一定期間後に再度心電図検査を受けることや、症状が出現した場合は医療機関を受診することが推奨されます。担当医の指示に従い、指示された期間で再検査を受けるようにしましょう。
要医療機関受診・要精密検査
指摘された異常所見が、何らかの心臓病の可能性を示唆しており、さらに詳しい検査や専門医による評価が必要と判断された場合です。この判定が出た場合は、自己判断で放置せず、必ず指定された期間内に循環器内科など心臓を専門とする医療機関を受診してください。
医療機関では、問診で自覚症状(動悸、息切れ、胸痛、めまいなど)の有無や程度、既往歴などを詳しく確認されます。その上で、健康診断の結果と合わせて、必要に応じて以下のような精密検査が行われます。
- ホルター心電図: 24時間、日常生活中の心電図を連続して記録する検査です。通常の短時間心電図では捉えきれない不整脈の種類や頻度、出現パターンなどを詳しく調べることができます。
- 心臓超音波検査(心エコー): 超音波を用いて心臓の大きさ、形、動き、弁の状態などを詳しく観察する検査です。心筋の厚さや心臓のポンプ機能、心臓弁膜症の有無などを評価できます。
- 運動負荷心電図: トレッドミル(ベルトコンベア式の装置)などで運動しながら心電図を記録する検査です。運動によって心臓に負荷をかけ、安静時には現れない心筋虚血や不整脈の誘発の有無を調べます。
- 冠動脈CT検査: 造影剤を使用して冠動脈をCTで撮影し、血管の狭窄や石灰化などを調べる検査です。
- 心臓カテーテル検査: カテーテルを血管から挿入し、心臓や冠動脈の状態を詳しく調べたり、治療を行ったりする検査です。
これらの精密検査の結果に基づいて、診断が確定し、適切な治療方針が決定されます。
医療機関を受診する際のポイント
- 健康診断の結果(心電図のコピーを含む)を必ず持参してください。
- 自覚症状(動悸、息切れ、胸痛など)がある場合は、いつ、どのような状況で起こるのか、詳しく伝えられるようにまとめておくと良いでしょう。
- 現在服用している薬があれば、お薬手帳などを持参してください。
- 気になることや不安なことは、遠慮なく医師に質問してください。
日常生活での注意点
心電図異常所見の原因として、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、過度の飲酒、運動不足、ストレスなどが関連していることがあります。これらのリスク因子を管理するために、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、節酒、十分な睡眠、ストレスマネジメントなど、健康的な生活習慣を心がけることが大切です。
まとめ
健康診断の心電図検査で異常を指摘されると、誰でも不安になるものです。しかし、異常所見の全てがすぐに治療が必要な重篤な病気を意味するわけではありません。多くの異常所見は、専門家による詳しい評価や精密検査によって、その意味や必要なが明らかになります。
大切なのは、指摘された異常を放置せず、健康診断の判定区分に従って適切に対応することです。「要経過観察」の場合は指示された期間での再検査を、「要医療機関受診・要精密検査」の場合は速やかに医療機関を受診し、専門医の判断を仰いでください。早期に適切な対応をすることで、安心して日常生活を送ることができます。ご自身の心臓の健康を守るために、専門家のサポートをぜひ活用してください。