健康診断のクレアチニンとeGFR 基準値とその意味 専門家解説
健康診断で見られるクレアチニンとeGFRとは?
健康診断の項目の中に、「クレアチニン」や「eGFR(推算糸球体濾過量)」といった言葉を見つけることがあるかと思います。これらの値は、私たちの体にとって非常に重要な臓器である「腎臓」の機能を知るための指標です。特に、近年はeGFRが腎臓の働きを評価する上で重視されています。
「この数値は何を意味するのだろうか」「基準値から外れていたけれど大丈夫だろうか」といった疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、健康診断で得られるクレアチニンとeGFRの値が何を示しているのか、その基準値や、もし異常値が指摘された場合にどのように考えれば良いのかについて、専門家の視点から詳しく解説いたします。
クレアチニンとは? 基準値と高値・低値の意味
クレアチニンとは何か
クレアチニンは、主に筋肉でエネルギーとして利用されたアミノ酸の一種であるクレアチンが分解されてできる老廃物です。このクレアチニンは、腎臓の「糸球体」という部分で血液から濾過され、尿として体の外に排泄されます。
健康な腎臓であれば、血液中のクレアチニンは効率よく排泄されるため、その濃度はほぼ一定に保たれます。しかし、腎臓の機能が低下すると、クレアチニンを十分に排泄できなくなり、血液中の濃度が上昇します。そのため、血中クレアチニン濃度は腎臓の機能、特に糸球体の濾過能力を知るための一つの重要な指標となります。
クレアチニンの基準値
クレアチニンの基準値は、検査を行う施設や測定方法によって若干異なりますが、一般的には以下の範囲に収まります。
- 男性: 0.6~1.1 mg/dL
- 女性: 0.4~0.8 mg/dL
ただし、クレアチニン値は筋肉量に影響されるため、筋肉質な人や、激しい運動をした後では、腎機能に問題がなくても高めの値を示すことがあります。逆に、高齢で筋肉量が少ない人や、病気などで筋肉が減少している人では、腎機能が低下していてもクレアチニン値があまり高くならないこともあります。また、食事(特に肉類)の影響を受けることもあります。
クレアチニン高値が示す可能性
血液中のクレアチニン値が高い場合、最も考えられる原因は腎機能の低下です。腎臓が老廃物を十分に濾過できていない状態が示唆されます。これは、慢性腎臓病(CKD)などの腎臓病が進行している可能性を示唆する重要なサインとなり得ます。 ただし、前述のように、筋肉量が多い、脱水、特定の薬剤の影響なども高値の原因となることがあります。
クレアチニン低値が示す可能性
クレアチニン値が低い場合、筋肉量が少ないことなどが考えられます。一般的に高値ほど腎機能への直接的な懸念は少ないですが、低栄養状態や特定の疾患と関連することもあります。
eGFR(推算糸球体濾過量)とは? 算出方法と基準値、その重要性
eGFRとは何か
eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)は、「推算糸球体濾過量」と訳され、腎臓が1分間にどれくらいの血液を濾過して尿を作れるかを示す指標です。これは、腎臓の働きをより正確に反映すると考えられており、国際的にも慢性腎臓病(CKD)の診断やステージ分類に用いられています。
eGFRは、実際に腎臓の濾過能力を測定するのではなく、年齢、性別、そして血液中のクレアチニン値(またはシスタチンCという別の物質の値)を用いて計算式によって「推算」されます。日本では、日本人の体格などに合わせた計算式が広く使われています。
- eGFRの計算式(日本腎臓病学会)
- 男性: 194 × Cr^(-1.094) × Age^(-0.287)
- 女性: 194 × Cr^(-1.094) × Age^(-0.287) × 0.739
- (Cr: 血清クレアチニン値 (mg/dL), Age: 年齢 (歳))
この式からもわかるように、クレアチニン値が高くなるほど、eGFRは低くなります。また、年齢が上がるにつれて腎機能は自然に低下する傾向があるため、同じクレアチニン値でも高齢の方のeGFRは若年の方よりも低く計算されます。
eGFRの基準値と慢性腎臓病(CKD)のステージ
eGFRは、腎機能の正常な状態を「90 mL/分/1.73m² 以上」とします。この値が低いほど、腎臓の働きが低下していることを示します。
eGFRは、慢性腎臓病(CKD)の診断基準の一つとして非常に重要です。CKDは、腎臓の障害または機能低下が3ヶ月以上持続した状態を指し、eGFRの値によって進行度がステージ分類されます(Gステージ)。
| eGFR (mL/分/1.73m²) | CKDのGステージ | 腎機能の状態 | | :------------------ | :------------- | :--------------------- | | 90以上 | G1 | 正常または亢進 | | 60〜89 | G2 | 腎機能軽度低下 | | 45〜59 | G3a | 腎機能中等度低下 | | 30〜44 | G3b | 腎機能中等度〜高度低下 | | 15〜29 | G4 | 腎機能高度低下 | | 15未満 | G5 | 末期腎不全 |
健康診断でeGFRが60未満であった場合、慢性腎臓病(CKD)の可能性が示唆されます。eGFRが低いほど、腎機能障害の程度は重くなります。
健康診断でクレアチニン高値やeGFR低値を指摘されたら
健康診断でクレアチニン値が高い、またはeGFRが低いと指摘された場合、すぐにパニックになる必要はありませんが、腎機能が低下している可能性を真剣に受け止める必要があります。
異常値が示す可能性
これらの異常値は、以下のような状態を示唆する可能性があります。
- 慢性腎臓病(CKD): 腎臓の機能が長い期間にわたって徐々に低下している状態です。初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断での指摘が重要です。
- 急性腎障害: 薬剤、脱水、感染症など、急な原因によって腎機能が一時的に低下している状態です。
- その他の腎疾患: 腎炎や糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症など、様々な腎臓に関連する病気が原因となっていることがあります。
- 脱水や筋肉量の影響: 一時的な要因や体質によるものである可能性も完全に否定はできません。
次に取るべき行動:再検査や精密検査
健康診断で異常値が指摘された場合、多くの場合「要再検査」や「要精密検査」となります。これは、一度の検査結果だけで確定診断はできないため、改めて詳しく調べる必要があるという意味です。
医療機関では、以下のような検査が行われることが一般的です。
- 血液検査: クレアチニンやeGFRの再測定に加え、尿素窒素(BUN)など他の腎機能マーカー、血糖値、脂質、電解質などの項目を調べます。
- 尿検査: 尿中のタンパク質(尿蛋白)、潜血、糖などを調べます。尿蛋白は腎臓の障害を示す重要な指標です。
- 腹部超音波検査: 腎臓の大きさ、形、結石の有無などを確認します。
- 画像検査: 必要に応じてCTやMRIが行われることもあります。
これらの精密検査によって、腎機能低下の原因や程度がより詳しく評価されます。
医療機関に相談する際のポイント
- 健康診断の結果用紙を必ず持参しましょう。
- いつから異常値を指摘されているのか、過去の健康診断結果も確認しておくと良いでしょう。
- 現在服用している薬やサプリメントがあれば、医師に伝えてください。
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症など、持病がある場合は必ず伝えてください。
- ご家族に腎臓病の方がいる場合も伝えましょう。
専門医(腎臓内科医など)に相談することで、ご自身の腎臓の状態について正確な情報を得られ、今後の管理や治療について適切なアドバイスを受けることができます。
日常生活でできること(一般的なアドバイス)
健康診断で腎機能の低下を示唆する結果が出た場合、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。
- 血圧・血糖値の管理: 高血圧や糖尿病は腎臓病の大きな原因となるため、適切に管理することが大切です。
- 減塩: 塩分の摂りすぎは血圧を上昇させ、腎臓に負担をかけます。意識して減塩を心がけましょう。
- 適正なタンパク質摂取: タンパク質の摂りすぎは腎臓の負担となることがあります。医師や管理栄養士の指導のもと、適正量を摂取しましょう。
- 水分摂取: 極端な脱水は腎臓に負担をかけますが、必要以上に水分を摂りすぎることも、腎機能が低下している場合はむくみの原因になることがあります。医師の指示に従いましょう。
- 禁煙: 喫煙は腎機能の悪化を早めることが知られています。
- 適度な運動: 腎臓に過度な負担をかけない範囲で、定期的な運動を取り入れましょう。
- 薬剤の管理: 市販薬を含め、腎臓に影響を与える可能性のある薬剤については、医師や薬剤師に相談しながら使用しましょう。
これらの生活習慣の改善は、腎機能のさらなる低下を予防したり、進行を遅らせたりするために有効です。
まとめ
健康診断でクレアチニン高値やeGFR低値が指摘された場合、それは腎機能の低下を示唆する重要なサインである可能性があります。特にeGFRは腎臓の濾過能力をより正確に反映する指標として注目されています。
もし異常値が出た場合は、まずは落ち着いて、必ず医療機関を受診し、再検査や精密検査を受けることが大切です。専門家による正確な診断と適切なアドバイスを受けることで、早期に問題を発見し、必要な対策を講じることができます。
ご自身の健康状態を把握し、適切なステップを踏むことで、腎臓の健康を守り、より質の高い生活を維持していくことができるでしょう。