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健康診断のクレアチニンとeGFR 基準値とその意味 専門家解説

Tags: クレアチニン, eGFR, 腎機能, 健康診断, 慢性腎臓病

健康診断で見られるクレアチニンとeGFRとは?

健康診断の項目の中に、「クレアチニン」や「eGFR(推算糸球体濾過量)」といった言葉を見つけることがあるかと思います。これらの値は、私たちの体にとって非常に重要な臓器である「腎臓」の機能を知るための指標です。特に、近年はeGFRが腎臓の働きを評価する上で重視されています。

「この数値は何を意味するのだろうか」「基準値から外れていたけれど大丈夫だろうか」といった疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、健康診断で得られるクレアチニンとeGFRの値が何を示しているのか、その基準値や、もし異常値が指摘された場合にどのように考えれば良いのかについて、専門家の視点から詳しく解説いたします。

クレアチニンとは? 基準値と高値・低値の意味

クレアチニンとは何か

クレアチニンは、主に筋肉でエネルギーとして利用されたアミノ酸の一種であるクレアチンが分解されてできる老廃物です。このクレアチニンは、腎臓の「糸球体」という部分で血液から濾過され、尿として体の外に排泄されます。

健康な腎臓であれば、血液中のクレアチニンは効率よく排泄されるため、その濃度はほぼ一定に保たれます。しかし、腎臓の機能が低下すると、クレアチニンを十分に排泄できなくなり、血液中の濃度が上昇します。そのため、血中クレアチニン濃度は腎臓の機能、特に糸球体の濾過能力を知るための一つの重要な指標となります。

クレアチニンの基準値

クレアチニンの基準値は、検査を行う施設や測定方法によって若干異なりますが、一般的には以下の範囲に収まります。

ただし、クレアチニン値は筋肉量に影響されるため、筋肉質な人や、激しい運動をした後では、腎機能に問題がなくても高めの値を示すことがあります。逆に、高齢で筋肉量が少ない人や、病気などで筋肉が減少している人では、腎機能が低下していてもクレアチニン値があまり高くならないこともあります。また、食事(特に肉類)の影響を受けることもあります。

クレアチニン高値が示す可能性

血液中のクレアチニン値が高い場合、最も考えられる原因は腎機能の低下です。腎臓が老廃物を十分に濾過できていない状態が示唆されます。これは、慢性腎臓病(CKD)などの腎臓病が進行している可能性を示唆する重要なサインとなり得ます。 ただし、前述のように、筋肉量が多い、脱水、特定の薬剤の影響なども高値の原因となることがあります。

クレアチニン低値が示す可能性

クレアチニン値が低い場合、筋肉量が少ないことなどが考えられます。一般的に高値ほど腎機能への直接的な懸念は少ないですが、低栄養状態や特定の疾患と関連することもあります。

eGFR(推算糸球体濾過量)とは? 算出方法と基準値、その重要性

eGFRとは何か

eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate)は、「推算糸球体濾過量」と訳され、腎臓が1分間にどれくらいの血液を濾過して尿を作れるかを示す指標です。これは、腎臓の働きをより正確に反映すると考えられており、国際的にも慢性腎臓病(CKD)の診断やステージ分類に用いられています。

eGFRは、実際に腎臓の濾過能力を測定するのではなく、年齢、性別、そして血液中のクレアチニン値(またはシスタチンCという別の物質の値)を用いて計算式によって「推算」されます。日本では、日本人の体格などに合わせた計算式が広く使われています。

この式からもわかるように、クレアチニン値が高くなるほど、eGFRは低くなります。また、年齢が上がるにつれて腎機能は自然に低下する傾向があるため、同じクレアチニン値でも高齢の方のeGFRは若年の方よりも低く計算されます。

eGFRの基準値と慢性腎臓病(CKD)のステージ

eGFRは、腎機能の正常な状態を「90 mL/分/1.73m² 以上」とします。この値が低いほど、腎臓の働きが低下していることを示します。

eGFRは、慢性腎臓病(CKD)の診断基準の一つとして非常に重要です。CKDは、腎臓の障害または機能低下が3ヶ月以上持続した状態を指し、eGFRの値によって進行度がステージ分類されます(Gステージ)。

| eGFR (mL/分/1.73m²) | CKDのGステージ | 腎機能の状態 | | :------------------ | :------------- | :--------------------- | | 90以上 | G1 | 正常または亢進 | | 60〜89 | G2 | 腎機能軽度低下 | | 45〜59 | G3a | 腎機能中等度低下 | | 30〜44 | G3b | 腎機能中等度〜高度低下 | | 15〜29 | G4 | 腎機能高度低下 | | 15未満 | G5 | 末期腎不全 |

健康診断でeGFRが60未満であった場合、慢性腎臓病(CKD)の可能性が示唆されます。eGFRが低いほど、腎機能障害の程度は重くなります。

健康診断でクレアチニン高値やeGFR低値を指摘されたら

健康診断でクレアチニン値が高い、またはeGFRが低いと指摘された場合、すぐにパニックになる必要はありませんが、腎機能が低下している可能性を真剣に受け止める必要があります。

異常値が示す可能性

これらの異常値は、以下のような状態を示唆する可能性があります。

次に取るべき行動:再検査や精密検査

健康診断で異常値が指摘された場合、多くの場合「要再検査」や「要精密検査」となります。これは、一度の検査結果だけで確定診断はできないため、改めて詳しく調べる必要があるという意味です。

医療機関では、以下のような検査が行われることが一般的です。

これらの精密検査によって、腎機能低下の原因や程度がより詳しく評価されます。

医療機関に相談する際のポイント

専門医(腎臓内科医など)に相談することで、ご自身の腎臓の状態について正確な情報を得られ、今後の管理や治療について適切なアドバイスを受けることができます。

日常生活でできること(一般的なアドバイス)

健康診断で腎機能の低下を示唆する結果が出た場合、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。

これらの生活習慣の改善は、腎機能のさらなる低下を予防したり、進行を遅らせたりするために有効です。

まとめ

健康診断でクレアチニン高値やeGFR低値が指摘された場合、それは腎機能の低下を示唆する重要なサインである可能性があります。特にeGFRは腎臓の濾過能力をより正確に反映する指標として注目されています。

もし異常値が出た場合は、まずは落ち着いて、必ず医療機関を受診し、再検査や精密検査を受けることが大切です。専門家による正確な診断と適切なアドバイスを受けることで、早期に問題を発見し、必要な対策を講じることができます。

ご自身の健康状態を把握し、適切なステップを踏むことで、腎臓の健康を守り、より質の高い生活を維持していくことができるでしょう。