健康診断の尿素窒素(BUN)とクレアチニン比 その意味と異常値が示す可能性
健康診断の尿素窒素(BUN)とクレアチニン比について
健康診断の血液検査項目には、腎臓の働きを評価するための様々な指標が含まれています。その中でも、尿素窒素(Blood Urea Nitrogen、BUN)とクレアチニンは基本的な項目です。これらの値を個別に評価することに加え、両者の比率(BUN/クレアチニン比)も腎機能や体の水分状態などを把握する上で重要な情報を提供します。今回は、この尿素窒素とクレアチニン比に焦点を当て、健康診断結果から読み取れる情報について専門家の立場から解説いたします。
尿素窒素(BUN)とは?
尿素窒素(BUN)は、タンパク質が体内で分解される際に生成される老廃物の一つです。肝臓でアンモニアから尿素が作られ、血液によって腎臓に運ばれ、尿として体外に排泄されます。血液中のBUN値は、この生成・分解・排泄のバランスを反映しています。
BUNの基準値は一般的に8〜20 mg/dL程度とされていますが、検査方法や施設によって多少異なります。この値は、食事内容(特にタンパク質の摂取量)、脱水の状態、肝臓の機能、そして最も重要な腎臓の機能に影響されます。
クレアチニンとは?
クレアチニンは、主に筋肉の代謝産物として生成される老廃物です。クレアチンという物質がエネルギーとして利用された後に生成され、ほぼ一定の量が血液中に放出され、腎臓の糸球体でろ過されて尿として排泄されます。クレアチニンの生成量は筋肉量にほぼ比例するため、個人の筋肉量によって基準値の範囲内で差が見られます(男性の方が一般的にやや高めです)。
クレアチニンの基準値は、男性で0.6〜1.1 mg/dL、女性で0.4〜0.8 mg/dL程度が目安とされます。クレアチニンは腎臓での排泄が主であるため、血清クレアチニン値は腎機能、特に糸球体ろ過率(GFR)を推定する上で非常に重要な指標となります。血清クレアチニン値が高ければ高いほど、腎臓の老廃物を排泄する能力が低下している可能性が考えられます。
BUN/クレアチニン比を見る理由
BUNとクレアチニンはともに腎臓から排泄される老廃物ですが、その性質には違いがあります。 * BUN: 腎臓の尿細管で一部が再吸収されます。この再吸収率は、体内の水分状態によって変動します。脱水状態では水分と一緒にBUNの再吸収が増えるため、BUN値が上昇しやすい傾向があります。 * クレアチニン: 尿細管での再吸収はほとんどありません。ほぼ一定量がろ過・排泄されます。そのため、クレアチニン値は主に腎臓のろ過能力(GFR)をより直接的に反映すると考えられます。
この性質の違いから、BUN値とクレアチニン値の単独での評価に加え、BUNをクレアチニンで割った比率(BUN/クレアチニン比)を見ることで、腎機能障害の種類や、腎機能以外の要因(脱水、消化管出血など)によるBUN上昇の可能性を推測するための手がかりが得られます。
BUN/クレアチニン比の基準値は、通常10〜20程度とされていますが、これには様々な要因が影響します。
BUN/クレアチニン比が高い場合
BUN/クレアチニン比が基準値よりも高い(例えば20を超える)場合、いくつかの可能性が考えられます。腎機能が正常であっても比率が高くなることがあります。
- 脱水: 体内の水分が不足すると、腎臓は水分の再吸収を増やそうとします。この際、BUNも一緒に再吸収される量が増えるため、血液中のBUN濃度が上昇し、相対的にクレアチニン値よりもBUN値が高くなり、比率が上昇します。これは、腎臓自体に問題がない「腎前性」の状態の一つです。
- 消化管出血: 消化管から出血がある場合、血液中のタンパク質が分解されてアミノ酸になり、肝臓で尿素に変換されます。これによりBUNの生成量が増加し、比率が高くなることがあります。
- 高タンパク食: 一時的に多量のタンパク質を摂取した場合も、BUNの生成が増えて比率が高くなる可能性があります。
- 心不全などによる腎血流量低下: 腎臓への血流が低下すると、糸球体でのろ過量が減るだけでなく、尿細管でのBUN再吸収が増えるため、BUN値がより顕著に上昇し、比率が高くなることがあります。これも腎前性の状態です。
- 尿路閉塞(軽度〜中等度): 尿管結石などで尿の通り道が完全に詰まっていなくても、流れが悪くなると、腎臓から尿がスムーズに排泄されず、BUNの再吸収が増加して比率が上昇することがあります。
- 特定の薬剤の影響: 一部の薬剤(例:テトラサイクリン系抗生物質、副腎皮質ステロイドなど)もBUNを上昇させる可能性があります。
BUN/クレアチニン比が高い場合は、これらの腎臓以外の原因(腎前性)や、腎臓自体に問題がある場合(腎性)、あるいは尿路に問題がある場合(腎後性)のどれが原因であるかを区別するための重要なヒントとなります。特に脱水は健康診断の採血時に起こりうる身近な原因の一つです。
BUN/クレアチニン比が低い場合
BUN/クレアチニン比が低い(例えば10を下回る)場合は、一般的に腎機能が正常であっても起こり得ますが、以下のような状態が考えられます。
- 肝機能障害: 肝臓で尿素が十分に生成されない場合にBUN値が低下し、比率が低くなることがあります。
- 低タンパク食や飢餓状態: タンパク質の摂取が極端に少ない場合、BUNの生成量が減少し比率が低くなる可能性があります。
- 抗利尿ホルモン分泌過剰症(SIADH): 体内の水分が過剰になり、相対的にBUNが希釈されることで比率が低くなることがあります。
- 重度の筋肉疾患: クレアチニンの生成量が極端に少ない場合に比率が低くなる可能性があります。
ただし、多くの場合は臨床的に大きな問題がない範囲での変動であることが多いですが、他の検査項目と合わせて総合的に判断する必要があります。
異常値が指摘されたら? 次にすべきこと
健康診断で尿素窒素やクレアチニン、あるいはBUN/クレアチニン比に異常が指摘された場合、最も重要なのはその異常が何を意味するのかを正確に把握することです。
- 他の検査項目との関連を確認する: BUNやクレアチニンだけでなく、eGFR(推定糸球体ろ過率)や尿検査(タンパク、潜血など)、他の血液検査項目(電解質、肝機能など)の結果も合わせて確認することが重要です。例えば、クレアチニン値も高く、eGFRが低下している場合は、腎機能自体の低下が強く疑われます。一方、クレアチニン値は正常範囲内でBUNだけが高い場合は、脱水や消化管出血、高タンパク食などが原因の可能性が高まります。
- 医療機関に相談する: 結果票に「要再検査」や「要精密検査」、「要医療」などの指示がある場合は、必ず速やかに医療機関を受診してください。指示がない場合でも、値の変動や他の気になる症状がある場合は、医師に相談することをお勧めします。
- 医師による評価: 医療機関では、医師があなたの既往歴、現在の症状、服用中の薬剤、食生活などを詳しく聞き取り、必要に応じて追加の血液検査、尿検査、腹部超音波検査などを行い、異常値の原因を特定します。BUN/クレアチニン比が高い原因が脱水であれば、水分補給によって改善するかどうかを確認したり、消化管出血が疑われればそのための検査を行ったりします。腎機能自体の問題が疑われる場合は、腎臓病専門医への紹介となることもあります。
ご自身の判断で安易に不安になったり、対策を始めたりするのではなく、専門家の診断を受けることが最も重要です。
まとめ
尿素窒素(BUN)とクレアチニン、そしてその比率(BUN/クレアチニン比)は、腎機能の評価だけでなく、体の水分バランスや他の疾患の可能性を示唆する重要な指標です。健康診断でこれらの値に異常が指摘された場合は、単独の値だけでなく、他の検査項目やご自身の体調も踏まえ、必ず医療機関で詳しい評価を受けてください。専門家である医師が、異常値の真の原因を突き止め、適切な診断とアドバイスを提供します。健康診断の結果を賢く活用し、ご自身の健康管理にお役立てください。